鷹の渡りの名所、信州白樺峠。初めてそこに鷹の渡りを見に行った。
9月22日。この日程を決めたのはもう2〜3週間も前で、他の予定との兼ね合いからその日で決め打ちせざるをえなかったので、渡りの当たり日にうまくハマるかどうか、ほぼ賭けだった。行く2日前が全国的な雨予報。前日は関東甲信は晴れだが北陸新潟が天候不順の予報。この分だと当日は当たりになる可能性が高く、数日前から期待に胸躍らせていた。しかし前日の速報値は670羽で、決して少なくない数だったので、どこまで当たってくれるか若干の不安も交錯していた。
当日は、高速道路のSAにて車中で前泊して、現地着は6時過ぎ。すでに登り口近くは車でいっぱいだったので、少し離れた広い駐車場に停めて出発。しかし近くの登り口まで5分とかからない。ここから登道。登山の道と違ってそれほど急ではない。いつもの山城登りと比べれば、ぜんぜん楽である。ようやく尾根上の平坦地に出た。まだしばらく歩くのかと思ったら、たか見の広場はもう目と鼻の先だった。到着時刻はたぶん6時半ぐらい。開けた広場にはすでに多くの人が来ていたが、まだ空きも多かった。
左手の少し前の方に居場所を定め、ゆっくり腰を落ちつけて見始める。天気は良かったが、さすがに標高1600mともなると少々肌寒い。フリースをジャケットの中に着込んで遠くの山並みを眺めていると、ポツポツと遠くで鷹が舞い上がり始めた。最初の頃は多くても4~5羽が飛んでくる程度で、とても大出現という感じではなく、若干不安になった。しかし数のピークは上昇気流が強くなる昼過ぎと聞いているので、これから増えてくるだろうと思っていた。でもなかなか増えてこない。最初の頃はほとんどハチクマのよう。10時頃だったろうか、トイレに行って席に戻ろうとしたら、広場の人がざわついていて右の空を見上げていた。見上げてみたら、この日初めての20羽ぐらい鷹柱が広場の近くに出現していた。初めて見る鷹柱は壮観だ。多くの鷹がゆっくり弧を描いて舞っていた。これを皮切りに、本格的な渡りが始まった。前半では、遠くの1の峰・2の峰・台形あたりで何羽もの鷹が舞い上がり、鷹柱を作って高度を上げたあと、こっちに近づいてきて、広場手前の谷の上で再び鷹柱で高度を上げてから通過していった。コブや鉄塔、松本あたりで舞い上がるのも見えた。
飛んでくる群れの中にはちっちゃなツミが何羽も混じっていて、鷹柱での旋回中に近くにいたハチクマに何度もアタックしていた。ひどい子になると、ハチクマに急降下して突っ込んでいくのもいた。なぜか鳥さんは体が小さい子の方が気が強い、というか攻撃的。我が家の鳥さんもそう。一番小さいマメルリハが、一番攻撃的。
渡る鳥の中には、猛禽だけでなくアマツバメ(ハリオらしい)も数羽、またイワツバメの群れも混じって渡っているのが見えた。イワツバメって昼間渡るんだ、と、この時初めて知った。
そのうち小学生が先生に引率されてきた。小学生は目がいい。遠くの鷹も双眼鏡無しで視認して見つけてた。「あそこにいっぱいいる!」とか大声で言うので、私達も鷹を探すのに大いに助かった。
昼頃には平日にも関わらず広場は人だかりで満杯になっていた。ルリコンゴウインコ・アカコンゴウインコ2羽を連れてきている人もいた。あとで妻が飼い主の方といろいろとお話をしてきたようだ。
時々日暈ができて、その中を鷹が渡っていく姿は素晴らしかった。12時ぐらいになると鷹の数が減ってきて、散発的にしか飛んでこなくなった。朝よりも雲量が増えてきたので、上昇気流が弱くなったためだろうか。もうピークは過ぎたかもしれないと思い、妻と帰る時間の相談をし始めていた。それから30分ぐらいしてからかな、急にまたコブや1の峰の辺でいっぱい鷹が舞い上がるのが見えるようになってきた。
昼を過ぎると上昇気流が少し弱くなったらしく、遠くの山の鷹柱で高度を上げきれず、広場の近くで大きな鷹柱を作るようになってきた。コブから1の峰あたりで湧き上がって、1回鷹柱を作って高度を上げ、次々にこっちに飛んできて、広場近くの上空で再び旋回を始めて鷹柱を作って高度を上げ、次々に山を越えていった。この頃にはサシバが主役になってきた。
谷筋を通る風向きが広場の左へ右へと変わっているらしく、最初は左へ飛んでいたが、しばらくして右へと飛んでいくようになり、そのうちまた左へと時刻によって鷹が飛んでいく方向が変化していった。
クライマックスでは、遠くで2つか3つの鷹柱ができて、順々にこっちに飛んできて、広場の前で再びそれぞれ鷹柱を作った。壮観だったのは、3つ同時にできた鷹柱。それもほとんど目の前みたいなところで。三重鷹柱なんてあるのか!?
続々と遠くの山並みの上の鷹柱から、何十羽も連なってこっちに向かって飛んでくる鷹の群れ。まるで真珠湾にむかう攻撃隊のよう。遠いのでカメラには収められなかったが、この編隊を組む鷹の群れの姿も印象的だった。
その後は2時ごろまで、鷹が引きも切らずに大勢で次々に飛んできた。もうどこを見てたらいいのか困るぐらい。大きな鷹柱では30~40羽ぐらいいて壮観だった。真上にも鷹柱ができた。鷹柱があまりに近すぎて、隣のニコンの超望遠を構えていたおじさんが、望遠だとフレームに収まらないと嘆いていた。
これだけの数の鷹が、広場の方に飛んできて鷹柱を次々に間近に作るのは、5年に1回しかない大当たりの日だとベテランの中村照男さん(白樺峠の仙人ともいわれる、白樺峠の渡りポイントの発見者。信州ワシタカ類渡り調査研究グループ)が言っていた。例年は、数が多くても鷹柱が少し離れた谷筋でできて、そのまま左右に流れていくことが多く、こんなに広場の近くを飛んでいくのは滅多にないらしい。たまたま中村さんが近くにいる場所で見ていたのも、貴重な話が聞けてとてもラッキーだった。
2時過ぎには小康状態になったので、うちにおいてきた鳥さん達が心配なのもあって、ここで撤収した。
人が多いので、カメラ自慢する親父とか、鳥に関係ない話をするうるさい人がいるのが心配だったが、そういう人がいなくてよかった。さすがにここまで登ってくる人はみんな鷹見に夢中。みんなで鷹を見つけてはその場所を言い合っていたので、お互いに鷹を見つけやすくて助かった。
帰ってきてから速報を見たら今季最高の3636羽。これ以上はないビギナーズラックで、もう一生分の運を使い切ったかも。
信州ワシタカ類渡り調査研究グループのホームページには、当日の模様が次のようにあった。
「最低気温は7度。秋らしい空の下、充実の1日を過ごす。7時過ぎからハチクマの小群が断続的に通過。10時前からはサシバが主体の渡りとなる。13時から14時半頃が今日のクライマックス。遠く近く、いくつもの鷹柱が立ち上がり、頭上をたくさんのタカがザラザラと流れていった。昨日までに比べノスリとツミの数も急増。残暑が解消し、秋の気配が深まったことでタカたちの渡りの衝動が呼び起こされたのだろう。アカハラダカは9時29分に記録。左右のP10が淡色な以外、ほぼ成羽の美しい個体が、頭上のかなり近いところを飛んでくれた。(くの)」
(この記事は、信州ワシタカ類渡り調査研究グループから転載許可を頂いております)

